犬生のわかれ道〜安楽死〜 | DogsByNature

犬生のわかれ道〜安楽死〜

Wrote:12.11.2006
カテゴリー:レポート


バタシードッグズアンドキャッツホームで研修していたときのこと。

バタシードッグズアンドキャッツホームとは、
迷い犬や猫、また、飼い続けられなくなった飼い主の代わりに新しい飼い主を探してくれる犬猫の保護収容施設。イギリス国内に3箇所ある。
日本の雑誌で何度も紹介されているので、その存在をご存知の方も少なくないかもしれない。

ここには、一般の人が収容された犬達と面会ができる犬舎と、その犬舎と離れたところに、すぐに里親を必要とされないリハビリ中の犬や、迷い犬が一時待機する犬舎がある。

研修の第1週目の課題は、リハビリ中の犬に優良家庭犬市民テスト(Good Dog Citizen Test)のシルバーレベルをトレーニングすること。

自分の担当犬をリハビリ棟に迎えに行く際、布で覆われている犬舎の横を通り過ぎる。
通常は、犬舎というと檻のようなイメージで、並列する柵の向こうに犬がいる。
何か理由でもなければ、布で覆われていることはない。
どの犬舎にも入居している犬ひとりひとりの情報カードがついていて、
犬の名前や(推定)年齢、入所時に受けた気質テストの結果が書かれている。
好奇心と探究心の赴くまま、足を留め、情報カードを見入る。
布の奥に住んでいたのは、アメリカンブルドッグの若犬、男の子。
どうやら極度の恐怖から攻撃行動が出るらしい。ゆっくり中をのぞくと、突然けたたまし
く飛び吠え付いてきた。そうさせないように、刺激を与えないようにと配慮された布だっ
たのに、そうした私が完全に悪く、そおっと歩き去った。

後からスタッフにこの施設にいる理由を尋ねてみた。彼は、家族をひどく噛んでしまい、飼い主が扱いきれず、この保護施設に連れてこられたそうだ。

アメリカンブルドッグは一般的に知られているブルドッグ(イギリス産)のスタンダードとはかなり違う。
アメリカンブルドッグの中にも、数タイプのブリーディングラインがあり、代表的なものは、ジョンソンタイプとスコットタイプと言われている。
それぞれに特徴があって、スコットタイプは虎柄で、動き重視のコンパクト体型、ジョンソンタイプは白地にブチ(パッチ)があり、護衛目的のため比較的体高が高く作られている。イギリスにおいてアメリカンブルドッグが目立って飼われるようになったのは、最近の出来事であるらしい。が、その最近、アメリカンブルドッグが保護施設に連れてこられるケースが少なくないらしい。

話を元に戻そう。

そんな場面をやりすごした後、課題を終え、次の研修へ。
行動問題カウンセリングのケーススタディだった。

この保護施設では行動問題の無料カウンセリングを行っていて、毎日いろいろな悩みを持った人が犬と共に訪れる。
今回私たちのケーススタディの協力をしてくれたのは、2歳近くになる男の子のジャーマンシェパード(以下、GSD)とその家族。

状況:
親戚が集まり、会食をしているとき、6歳の女の子が大人の目の離れたところでその犬にひどく噛まれた。女の子は16針も縫わなければならない大怪我を顔に負った。
GSDの飼い主は、大怪我を負った女の子のおじ。
その女の子の両親、つまり飼い主の兄(弟)はそのGSDを安楽死させることを願った。
しかし、飼い主はそうしたくなかった。
獣医師、女の子の治療にあたった医師は、GSDの安楽死を薦めた。けれども、やはり飼い主はどうしても安楽死が受け入れられなかった。親戚同士ということもあって、何とか裁判沙汰はさけたいと、セカンドオピニオンを求め、GSDを連れた飼い主がやってきた。

このGSDの気質テストの一部が屋外の囲いの中で行われ、私たちは約200メートル離れた所からそれを検証していた。その時、私たちの約100メートル背後を先ほどのアメリカンブルドッグが二人のスタッフに連れられて歩いていった。右と左両方から捕獲具とリードがつけられていた。

「これが彼の最後のお散歩だね」事情を知っていた先生が、ぼそっとつぶやく。

目の前にいるGSDは子どもに16針もの縫い傷を負わせたにもかかわらず、飼い主はなんとしてでも自分の犬を死なせまいとその道を探る。
後ろの犬は、飼い主に見放され、飼い主に看取られることもないまま一生を終えようとしている。

二人のスタッフによる重警備とともに施設内の獣医院へ入っていくアメリカンブルドッグ。周囲への不信感など感じさせず、静かに、軽やかに歩いていく彼と二人。あの後ろ姿は、今でも脳裏に焼きつき、目頭が熱くなる。

命を救う大事さとあきらめることの無念さ・・・。

行動上の問題で安楽死を選択せざる得ないと判断された犬たちには、犯罪などという意識はない。育つ過程での体験によって、ある行動が強化され続けた結果にすぎない。その体験を創造しているのは私たち、人である。

かけがえのない命の終わりを、どう決めるのか・・・。

獣医院、保護施設で働く人達は、日々、生命の始終、様々なドラマに出会いつつ、ジレンマと戦い、日々を乗り越えていかれる。全く尊敬に値する。目の当たりにしたやりきれなさに耐えられず、あふれる涙と共にタバコをふかした。あの気持ちは、これからも二度と忘れることはないだろう。




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