第2回JAPDTカンファレンス〜支配性と学習理論〜 | DogsByNature

第2回JAPDTカンファレンス〜支配性と学習理論〜

Wrote:09.23.2007
カテゴリー:しつけのヒント


2007年9月12日〜14日、神奈川県麻布大学において
NPO法人日本ペットドッグトレーナーズ協会のカンファレンスに参加してきました。

イギリス時代からお世話になっているサラ・ホワイドヘッド先生の講演はじめ、
アメリカから著名な先生や、日本で活躍されているトレーナー約20数名の方々の
セミナーが4日間にわたって行われました。

今回参加の目的は、
イヌの支配性や感情的知性、学習理論用語のおさらいと広くペットドッグトレーニング事情を知ることでした。

■イヌの支配性について
「イヌはオオカミにあらず」という考えは、もともと「負の強化」や「正の罰」を中心とした虐待に近い訓練方法を回避するためのもの、と私は理解しています。
(以下、私の理解していることをまとめました。講演内容ではないのでご了承ください。講演内容は、サラ先生の教育コースAlpha Pet BehaviorのThink Dog! Intermediateを受講されるか、JAPDTのDVDをお求めください)

「オオカミのような群れの習性をもつイヌ」という表現は、言い換えれば
「優位性を感じ取ることができる習性をもつ生き物」といった感じ。

イヌとオオカミとの共通点を強調されるのはなぜ?

それは、イヌがオオカミを祖先にもつという理由で、群れの習性を利用した訓練の方法や必要性を説明しようとしたから。

1−イヌが言うことを聞かないのは、イヌがリーダーだと勘違いし、イヌがワガママなのだ、イヌはオオカミを祖先にもち、リーダーに絶対服従する生き物だから、家族を群れとみなすイヌは、ヒトに対して絶対服従するべきであり、イヌが言うことを聞かないときは、おびえさせたり、殴ったり蹴ったりして痛みを与えてでも服従させなければもっとワガママになる。この考えは、優位性(リーダーシップ)=暴力による支配と誤解されてしまう。

2−イヌが言うことを聞かないということは、ヒトがリーダーシップを発揮できていないからだ、ヒトがリーダーにならなければ、イヌは群れである家族の中でリーダーという地位を保持するために日々ストレスを感じることになり、かわいそう。
この考えは、家庭犬にしつけが必要な理由として、おなじみ。

どちらも、イヌとオオカミとの共通点を利用して、ヒトがイヌのリーダーになるための訓練やしつけの必要性についてもっともらしく説明されてきました。

イヌとオオカミの共通点を引き合いにしたこの論理は、ドイツの軍用犬トレーナーの古い文献で確認されていますが、実際その時点では、オオカミとイヌの関係については、DNA鑑定などによる確固たる証拠はなかったらしい。

では、もうちょっと原点に戻って、なぜ犬を飼うの?
・・・・・
犬をしつけたり、訓練するのは、なぜ?
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イヌが言うことを聞かないのはなぜ?
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イヌと楽しく暮らすために、イヌのストレスを軽減するってどんなこと?
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イヌは何にストレスを感じるの?
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イヌがストレスを感じているってどう判断すればいいの?
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ストレスが溜まるとどうなるのでしょうか?
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攻撃行動や排泄行動は、生得的行動?それとも習得的行動?
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攻撃行動や排泄行動などの行動上の問題は
イヌがオオカミのようにリーダーの座を狙っていたり、
なりたくもないリーダーにさせられているから起こるの?
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イヌって人間の家族を群れだと思っているの?
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群れって何?
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オオカミの群れって?
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イヌって順位を理解できる生き物のようだけど、
オオカミのように階級を意識して生きているものなのかな?
・・・・・
イヌってオオカミとの共通点より、実は相違点の方が多いかも。
ここがポイントかもしれませんね。
じゃあ、イヌってどんな生き物?

オオカミとイヌは、身体的特徴、居住地、食糧の調達方法も違うし、性質も違う。
イヌは、オオカミに比べ社会化期が長く、ヒトの感情を理解する学習能力にもたけ、トレーニングしやしすいためヒトと共存できやすい。(参考「Dogs」レイモンド&ロウナ・コッピンジャー)

というわけで、イヌは、オオカミとは違う生き物。
オオカミを引き合いにして、暴力的なトレーニングをしたり、しつけの根拠を説明する必要はないのではないだろうか。

簡単に言えば、
人間が類人猿(サル)ではないように、イヌもオオカミではないので、
祖先が同じというだけで、同様に扱うべきだという論理はおかしい。
第一、ここで言ってるオオカミっていうのは、捕らえられたオオカミの観察であって、人工的な環境での行動は不自然なはず。オオカミが本来どのような行動をとるのかって言う点では、あまり参考にできないよ、ということらしい。(参考:「Think Dog!Intermediate」ジョン・フィッシャー&サラ・ホワイトヘッド )
納得?

イヌはオペラント条件付け学習が得意な生き物。
ヒトとの合図や合言葉を学んでいる(しつけられている)イヌは、ヒトとのコミュニケーションがとりやすく、問題が起きにくい、反面、その合図や合言葉をヒトの意図とは違って学習してしまうこともできる、
つまり
イヌが言うことを聞かない理由は、ヒトの意図することを学習していない(しつけられていない)か、ヒトの意図とは違って学習してしまった(ヒトはしつけたつもりでもイヌはわかっていない)ため、と説明できる。
結論
「イヌの行動は、捕らわれたオオカミの行動研究を根拠にした支配性・優位性理論ではなく、イヌの生得的行動の発達や、科学的に立証された学習理論によって説明するべきではないだろうか。」
欧米において、ペットドッグトレーナーの間にこのような考え方が提言されたのはすでに
7〜8年前のようです。

今回のJAPDTにおいては特に、この
支配性より学習理論を重視するトレーニング、
イヌを読んで客観的に評価する、
という部分にスポットがあたっていたように感じました。

■日本のペットドッグトレーニング事情
災害救助犬の国際審査員であり、国際的な視野で日本のドッグトレーニング界でご活躍の村瀬先生、科学的知見、科学的根拠に基づくイヌ語について発表された長谷川先生、今後のペット共生住宅におけるトレーナーの役割を提言された岩瀬先生、トレーニングの客観的評価の発表をされた辻先生、イヌの幼稚園の活動を発表された和久先生、災害救助犬育成で活躍される大島先生、ケーナインフリースタイルの高度なスキルやその楽しさを発表された畔柳先生、イギリスから日光に移り住み、ペットドッグトレーニングや行動問題の解決に取り組むスミス先生、訓練士という立場からペットドッグトレーニングやトレーナー育成へ着眼し、クロスオーバー訓練士として活躍される石和田先生、子どもとイヌの共生についてドイツの活動を発表された川原先生はじめ20数名のプレゼンテーションがありました。子イヌの発達やパピークラスのセミナーはじめ、ぜひとも参加したいセミナーばかりでした。プログラムの関係上、全て拝聴することはできませんでしたが、経験と科学、共生という観点からこれからのトレーニングへの提言がされたように感じ、非常におもしろかったです。

■パネルディスカッション
「正の強化」を中心としたトレーニング方法の普及についてがテーマ。
「強制」とは?
「負の罰」を効果的に使う方法は?
「正の強化」のトレーニングは「叱らない」ということ?
などの質疑応答が行われました。非常に興味深いお話でした。

私が最も印象深く受け止めたお話は、理事の太田先生のお話です。
「私が陽性強化法の普及だ!と思えるようになったきっかけは、犬や馬のおなかを開いて直接動物のストレスというものを目にしたことです。多くの家庭犬、競走馬にいたっては100%、胃に穴があいています。この潰瘍はどこから来るのだろうか?この気持ちから
トレーニングは陽性強化を中心にすべきという思いに行き当たりました。」

ショックでした。獣医ではない私には想像の世界ですが、死後解剖をした方から直接耳にすると、本当にショックです。
このディスカッションでは、犬にストレス(負担)を極力少なくし、ヒトと楽しく共生できる社会をめざすためのペットドッグトレーニングの理念として、陽性強化法を中心に取り入れていくべきことが提言されましたが、
「実際に誉めるだけで、効果的なしつけができるのか?時には叱らなければいけない場面が生活の中にはあるのではないか?」という意見もでました。実はここが核心だったようです。この問いかけには
「イヌ個体によって、叱るという言葉にもいろんな強度がある。ある犬には小声でたしなめるだけで効果がある場合もあり、ある犬には怒鳴りつけても効果がない場合もある。叱ることがいけないとか、いいということにとらわれるのではなく、その罰子がその行動を弱めたり、なくす効果(結果)をだしているか、将来、その行動を減らすためにその罰子が有効かどうかで個体によって判断するべきじゃないだろうか。私自身が犬を飼い始めた頃は、体罰を使った強制トレーニング(「負の強化」を中心としたトレーニング)を学びました。その頃は、そのトレーニング方法が一般的で、実際、私はチョークチェーンや天罰方式の罰の与え方はかなり上手な方だと思っています。そこから、この陽性強化法(「正の強化」「分化強化」)を中心にしても犬が効果的に学べるのだと思えるまでには時間がかかりました。当然、当初は疑ってかかっていました。人はすぐに変化を受け入れられません。ゆっくりゆっくり変わっていくのです。疑いながらも、勉強していくうち、陽性強化を中心としたトレーニングで効果があがることに疑いがなくなりました。私の周りの競技会参加者も陽性強化法でチャンピオンをとったりしています。だからといって、強制トレーニングをしていた私も、陽性強化トレーニングをしている私も犬を愛する気持ちはずっとかわっていません。強制をつかっっていた頃も犬が大好きで、今も変わらないのです。」
という意見が出たところで時間切れとなりました。

■全体を通して
「イヌはオオカミにあらず」—優位性理論よりも学習理論の理解を深め、
強化子(好子)を活用するスキルを十分に伸ばした上で、罰子(嫌子)活用の弊害・長所も理解しつつ、経験と理論、どちらにも偏らず、バランスよいトレーニング方法、環境を構築したいな、と再認識させられました。

ってカッコいいコト言ってるけど、一生の課題ですね〜。死ぬまでに理論と経験のバランスがとれるんかいな〜。今のところ、ちょっと理論が勝ってるかな?イギリス時代は、お天道様と大地が近かったんだけど。
「イヌが大好きな気持ちと一生勉強していく謙虚さがないとイヌの世界で生きていけないよ」っていう師匠の言葉そして
Life just gives you TIME and SPACE – It’s up to you to fill it.
っていう恩人の言葉が身にしみます。

情報提供、情報交換の場としてのJAPDT。今後も自己研鑽、切磋琢磨をするための開かれた場として、横のつながりができる場として存在していただけるといいな、と思います。